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校長ブログ

2018年05月31日(木) これからの英語教育

 今、英語教育が注目されています。現場の英語教員に加えて、英語教育関係者からも助言を求められることが多いので、今回は、前文部科学省初等中等教育局視学官で、現在、名古屋外国語大学の太田光春教授に、今後の英語教育改革の方向性についてインタビューした記事(『進研ジャーナル』2016. 秋冬号)を大阪進研の許可を得て、掲載しますので参考にしてください。

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■ 小中高の英語教育に望むことは何か

平井: 学習指導要領の改訂、大学入試改革など、様々な変容の中で、英語教育にも転機が訪れようとしています。今後のあるべき英語教育をどのようにお考えですか?
太田: 学校に期待することは「英語が好きだ」「英語が得意だ」という気持ちにさせる指導や評価を工夫し、小中高が連携して自律した学習者を育てることです。
 人は、好きなことには時間をかけます。時間をかければそれだけ得意になります。そして、好きだから得意、得意だから好きになってまたがんばるという好循環が生まれます。小中高で「好きだ」「得意だ」をつないでいけば、卒業後もずっと学び続けるでしょう。生涯にわたり英語と付き合う人になれば、誰でも必要に応じた英語が使えるようになります。英語を身に付けるには、情熱、時間と労力、粘り強さが必要です。ですから学校では、「好き」「得意」という気持ちを醸成することが重要なのです。
平井: 今や英語で英語の授業は時代の潮流であり、どの学校でも生徒が英語を使う場面がかなり増えてきているのも事実です。国の目標も中卒段階で英検3級以上、高卒段階で準2~2級以上が設定されています。英語で英語の授業について望まれることは何ですか。
太田: 教師は生徒の理解の程度に応じた英語を使う必要があります。また、授業は生徒の英語力を高めるためにあるわけですから、教師が50分間英語で話し続けていてはいけません。生徒がおおむね理解できる英語をたくさん聞いたり、読んだり、相手に分かるように話したり、書いたりしなければなりません。もちろん伝え合うのは、情報や考えや気持ちです。ドリル中心ではなく、これらを生徒から引き出す授業が求められます。
 日本は学校から一歩出たら英語を使わなくても生活できるEFLの環境です。映画には吹き替えがあるし、話題になった本は翻訳されます。そういう環境だからこそ英語の時間に英語に触れることが求められるのです。50分のほとんどを日本語で過ごすのは、楽器に触れさせないで、楽器の演奏ができるようにするようなものです。
 楽器に触れる経験が乏しいから楽器の演奏ができないのと同様、英語で伝え合う経験が乏しいから使える英語が身に付かない。日本語での説明や訳を聞いて「分かりました」と生徒が言うと安心する教師がいますが、「あなたの話す日本語が理解できた」と言っているに過ぎないことに気付くべきです。大切なことは、生徒が、あいまいさに耐えながら英語を英語のまま処理できるようにすることです。言語習得は、あいまいさに耐えながらあいまいさを減じていく営みとも言えます。実際に英語を使う場合に、日本語による手助けはほとんど期待できません。聞き取れた英語、読んだ英語から、必要な情報を手に入れることしかできないのです。その際、文脈から意味を推測する力やコミュニケーション・ブレークダウンを乗り越える表現力があると大いに役立ちます。

■ 英語4技能のバランスのよい習得に向けてのアドバイス

平井: 本来、語学の学修は、「聞く、読む、話す、書く」というバランスのとれたコミュニケーション手段に習熟することによって、異文化を実感し、多様な価値観を尊重するとともに、日本を見つめ直し、時代を生き抜く力を身に付けることだと思いますが、その基本となる4技能のスキルを身に付けるにはどうすればよいとお考えですか。
太田: 話せるようになるには話す、聞けるようになるには聞く、読めるようになるには読む、書けるようになるには書く、しかありません。英語を勉強するという発想を捨て、英語を生活の一部に組み入れて付き合うようにすることが大切です。
 触れる英語は、おおむね理解できる英語でなければなりません。日本語を介在させなくても理解できる英語にたくさん触れることが上達の秘訣です。話すときは、相手に伝わるように話すことが大切です。コミュニケーションでは、聞き手に配慮して言葉を使うことが求められるからです。書くときも日本語を英語に訳すのではなく、最初から英語で書くようにします。読み手を意識して書くようにすると良い文章が書けるようになります。情報を英語で集め、その中の使える表現を活用しながら英語の文章を書くようにすれば、訳すという手間が省けます。適切な語や表現も簡単に手に入れることができます。話すときも書くときも、伝えたい内容が一番重要です。完璧を求め、文法や表現の誤りを気にし過ぎると、前に進めません。
 4技能を伸ばすためには学習者自身が意欲や情熱を持って英語を使う(聞く、読む、話す、書く)機会を求めていかなくてはいけません。英語に熟達できるかどうかは、学校外でどれだけ英語に接するかにかかっています。英語が身に付けられるかどうかは本人次第なのです。生徒が英語学習者としての自信を高めるためには、英語によるコミュニケーションでの成功体験が必要になります。例えば、スピーキングでは、即興で話す場合と、プレゼンテーションなどの、準備して話す場合があるので、その両方について成功体験をさせる必要があります。
 語彙や文法を文脈と切り離して扱うことは、世界標準ではありません。母国語でも外国語でも、知らない言葉はたくさんあります。英単語には読み飛ばしてもあまり影響のないものと理解に支障をきたすものがあります。知らない単語や表現に出会ったときに前後関係から意味を推測する習慣を身に付けましょう。辞書を引く前に必ず意味を推測し、後から辞書で確認する手続きが読む力の向上に有効です。
平井: 意欲や情熱を持って取り組むことが大切とのことですが、確かに現在の日本には英語があふれています。求めればパソコンやiPadで発音練習もできるし、情報も得られますね。
太田: 英語こそポケモンGO!だと思います。生徒は、授業の外でたくさんの英語に触れ、多様な語彙や表現を収集します。教室がこうして集めた(モンスター=表現)を披露する場(アウトプットの場)になっていれば、「そのすばらしい表現、どこで見つけたの」とか「なぜ、そんな表現を知っているの、すごいね」というやり取りが日常的になります。すると、生徒たちは語彙や表現を進んで求めるようになります。教室が、発見した表現や文法、構文などをリサイクルする場(言語活動の充実の場)に進化するのです。そのため、授業時間は、教科書のコンテンツの理解に割くのでなく、コンテンツについて自分の意見や気持ちを伝え合うことに割くとよいでしょう。そうすればポケモンGO!効果が期待できます。生徒たちが使いたい表現を持ち寄って、披露する。それが周りに認められ、教師に褒められる‥‥。生徒は英語に費やす時間や労力を惜しまなくなるでしょう。ポケモンはバーチャルで、集めても実際には何も残らないですが、集めた英語の語彙や表現はコミュニケーションに資するものとして確実に残ります。

■ アクティブ・ラーニング、ICT教育への取り組みについて

平井: グローバル化や人工知能の進展に伴い、将来の予測が難しい社会で自律的に生きる力を育成するために、「何を学ぶか」に加えて、「どのように学ぶか」を重視し、学び方を見直すことによって、生徒同士の議論や調べ学習などを取り入れ、知識の深い理解を目指すものとしてアクティブ・ラーニングが掲げられています。アクティブ・ラーニングについてどのように考えられていますか?
太田: アクティブ・ラーニングという言葉は、学習の主役は生徒であり、「教師が何をどれだけ教えたか」ではなく「生徒が何を学んだか、何ができるようになったかが大切」というメッセージを伝えています。つまり、授業は生徒が学ぶためにあるのであって、教師が知識を伝達するためにあるのではないということです。学ぶ目的は、知識をたくさん身に付けることではなく、知識を活用して考えや意見を構築したり、判断したりできるようになることです。そのためには思考力の育成が欠かせません。批判的思考力や論理的思考力、分析的思考力は意識して伸ばす必要があります。
 二十世紀には、教師がプリントを何枚も用意し、生徒がその穴埋めをしたあと、暗記するという知識注入型の授業が多くみられました。教師の手腕は、いかに短期間に効率よく知識を授けることができるかにありました。教師の役割は、グラウンドでプレーをして見せることで、生徒は観客席にいたのです。英語に関して言えば、生徒がプレーヤーにならなければコミュニケーション能力は絶対に身に付きません。
 アクティブ・ラーニングの考え方では、グラウンドでプレーするのは生徒です。生徒がファインプレーや連携プレーができるように、教師はコーチ(助言)、アンパイア(評価)、そして監督(学びのマネジメント)の役割をします。
 アクティブ・ラーニングでは対話も重要です。教師と生徒、生徒と生徒、様々な対話の形式があります。対話を軸とした授業では生徒の参画意識が高まり、多くの生徒が常に頭を働かせるようになります。関心を持ち注意を払っている時間も長くなります。人は、注意を払いながら経験したことはよく覚えています。効果的な学びには、「注意を払うこと」と「気付き」がとても大事なのです。
 授業には、考える時間、判断する時間、表現する時間が必要です。そのためには、生徒の言語活動を充実させる必要があります。一方的な授業ではなく、教師と生徒、生徒と生徒の対話を軸にした授業の展開が求められます。
平井: 「どのように学び、何ができるようになるのか」という視点の中、ICT活用とその環境整備、デジタル教材等についてはどうですか?
太田: 言語習得に、ICTは非常に有効です。莫大なインプットが、居ながらにして得られるからです。科学技術の発達のおかげで、わが国には英語があふれています。外国語教育を成功させるためには、自ら英語を求める人をつくればよいのです。そのためには、授業を通して学習者としての自信を与え、学習への動機付けをする必要があります。学外でのICTの有効活用を考えると、学内ですべきことも見えてきます。教師やネイティブスピーカーがいるからすべきこと、友達がいるからすべきこと、生徒が一人でできること。これらをきちんと整理し、教室でしかできないことに多くの時間を割く必要があります。問題集の答え合わせは、生徒が一人でできることです。学校では、人との関わりの中で英語を使う経験をすることが大切です。なぜなら言葉は人と人をつなぐ道具だからです。そう考えると授業中でのICTは、あくまで補助的な役割になります。
 しかし、学外で英語に触れる機会を豊かにしたり、siri等を活用して発音や表現を上達させたりするためにICTは非常に効果的です。積極的にICTを活用して英語を日常生活に組み入れ、継続的に付き合うようにすれば、英語の習得は辛いものではなくなります。

■ 外部検定試験の活用など、高校入試あるいは大学入試はどう変わっていくか

平井: 作問・採点などの課題を克服するだけでなく、4技能の妥当性・信頼性・客観性を測るテストということで外部試験を採用していこうとする方向性があるようですが。
太田: 高校入試も大学入試も、評価の妥当性(評価しなければならないものを評価する)を担保する必要があります。また、学校での英語教育に悪影響を与えてはいけません。学校での英語教育の目標は、「コミュニケーション能力の育成」ですから、入試では、それを評価することが期待されます。しかし、現実にはそうなってはいません。入試で4技能(5領域)を評価できれば理想的なのですが、実行可能性と信頼性の担保を考慮すると、その実現にはかなり厳しいものがあります。しかし、生徒たちの学びを大切に考えたら、パフォーマンス評価は絶対に必要です。バレーボールのスパイクが打てるかどうかは、筆記試験では判定できません。スピーキングの能力を筆記試験で判定することもほぼ不可能です。また、入試にスピーキングが含まれなければ、学校での積極的な指導も期待できないでしょう。生徒の学習にも大きな影響を与えます。多くの生徒は、評価されないものに時間を割くことをしないからです。
 では、どうすればよいか。次善の策として4技能(5領域)を測定できる外部試験を活用することが考えられます。学習指導要領の目標が「コミュニケーション能力の育成」であり、多くの日本人が英語によるコミュニケーション能力を身に付けたいと願っていることを考えると、学校が4技能の育成を目指す授業を提供することは極めて重要です。したがって、妥当性、信頼性、実行可能性、波及効果、これらすべてをクリアできている外部試験を評価に活用することは、英語教育の質の維持向上の観点からも考慮に値すると考えます。
 また、高校入試、大学入試から英語をはずして外部(検定)試験の結果を資格のように扱うのも一つの方法だと思います。その際、英語が得意である生徒が不利にならないように、外部試験で良い成績を収めた生徒には他の科目の合計点に加算するなどの工夫をすることも可能だと思います。

■ 高校受験を控える中学生へのメッセージ

平井: 高校受験を迎える生徒たちに、英語の学びについての助言をお願いします。
太田: 4技能を総合的に伸ばすことは、入試でも有利に働きます。「4技能を伸ばす授業を展開した結果、入試でも良い結果が得られた」という報告が全国からたくさん届きました。当然の結果だと思います。英語が使えるようになるという確信は、学習者の心に火をつけるからです。4技能を伸ばす努力をすれば、本当の意味での英語力が高まるため、結果として高校入試もクリアできるのです。25メートルプールを仕方なく泳いでいる人と川や海を楽しみながら泳いでいる人の、どちらに総合的な泳力があるかは明らかです。英語は使うものなので、電車やバスでの移動時間に英語の本を読むとか、スマートフォンを使って英語を聴くなどすれば、英語力はどんどんついていきます。英語力の向上と筋肉の発達は似ています。努力しなければ付けられません。急にも付きません。中断したら衰えてしまいます。毎日適度に続けることが効果的に身に付ける秘訣なのです。
 繰り返しますが、英語は勉強するものではなくお付き合いするものです。伝え合うという目的で、聞く、読む、話す、書くという行為をして初めて身に付くのです。
 学びの早い人、遅い人はいます。でも、学べない人はいません。大切なことは、自分を信じて学び続けることです。自分が自分をあきらめ、見捨ててしまったら、自分がかわいそうだと思いませんか。多くの人にとって人生は80年以上あります。つまり、学校を卒業してからも学び続けなければ、そして学校で身に付けた知識や技能をアップデート、アップグレードし続けなければ、自分の人生を豊かにすることも、人の役に立つという志を持って社会貢献することも難しくなってしまいます。社会に出てからも学び続けることができるよう、その学ぶ準備をする場所が学校であり、知識や技能は、自分のためだけでなく人の役に立つためにも身に付けるものである。そう考えれば学ぶことが楽しくなりませんか。

平井: ありがとうございました。お話をお伺いして、グローバル化が進展し、知識基盤社会へ変容しようとしている今、個性を大切にし、多様な人々と協調しながらハングリー精神と主体性を持って人生を切り拓いていく力が必要とされており、そのために生涯を通して知識・技術を学んでいける基礎を育む教育が求められていることがメッセージとして伝わってきました。
(対談日/平成28年8月31日)
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