学校生活

【はつとんWeekly】 校長室より(8)

「個性」

 少し前に、新井白石を主人公にした、藤沢周平の「市塵」という本を読みました。藤沢周平がこの本を書くとき、どれだけのことを調べて書いたのだろうと感心するぐらい、白石の高潔さや政治での胆力と江戸の空気のようなものが伝わってくる小説でした。武家物ですが、斬りあいがあるわけでもなく、合戦があるわけでもない、淡々と時間が流れていく内容なのに2分冊の文庫本をあっという間に読み終えました。他にも、司馬遼太郎の「空海の風景」を読んだ時も同じような感じを受けました。

 

shijin_1.JPG 作家は、歴史上の人物を描くとき、その人物だけでなく、その時代の事柄や歴史的な流れ、周りの人とのかかわり、当時の風俗、景色や言葉、流行していた事柄や料理など、少し想像するだけでかなりたくさんのことを調べなければならないのだろうと思います。そして、きっとその人物の足跡を訪ね、その土地土地の空気感を味わい、最終的にその人物との、ある種の同化のようなことが起こるのかなと想像します。

 そうすると、「あくまで小説なのだから作り物で、本当はもっと違った人物かもしれない」、とは案外言えないのではと感じます。もちろん、作家の主観が強すぎて、資料の読みが方向性を持ってしまう場合もあると思うのですが、だから描く人物像が全く違うことになるとは想像しにくいのです。もちろん賛否あるでしょうが。


shijin_2.JPG 明治や大正の時期の人物、たとえば夏目漱石や寺田寅彦などの文を読んで漠然と感じることのできる性格やその人物の雰囲気は、残っている多くの資料が示しているものと大きく違わないことを考えると、白石や空海にも、我々はこういった小説を通じて出会うことができていると思ってもよいような気がします。

 このことは、結局のところ描かれている人物の個性に由来するからなのだと思います。それほどに個性というものは、その人を強烈に形作っています。時間を超えて、人々に伝わるほどに。 個性的であるということは、自分を自分として生きるということなのだと思います。それは、身勝手や周りを顧みないというような軽々しいものではなく、もっとその人の本質にかかわることなのだと思います。

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